病気にも「お国柄」がある
どんな遺伝子を受け継ぎ、どんな環境要因のもとで暮らしているかは一人一人違い、こうやって作られた体質によって個人の病気のなりやすさが決まります。 このとき、よく似た遺伝的素因と環境要因を持つ人が大勢いると、個人を超えた人の集団においても、病気のかかりやすさについて共通の傾向があらわれます。その集団の中で結婚する人が多ければ同じ遺伝的素因を持つ人の割合が高くなりますし、人と人の結びつきが強ければ生活習慣も似かよったものになるでしょう。
とくに、日本のように自然の境界によって他国と隔てられた国では、こういう傾向が強くなります。 その結果、同じ病気でも国や人種によって発症率や原因、症状などに大きな違いが生まれました。
たとえば日本は皮膚がんが世界で最も少ない国の一つで、皮膚がんが非常に多いオーストラリアやニュージーランドとくらべると発症率が100分の1しかありません。
その一方でアトピー性皮膚炎は先進国に多いとされ、同じ黄色人種で比較しても日本は韓国や香港の3倍くらい多く、フランス、オーストラリア、米国と肩を並べます。
また、結核も日本で発症が多いことが知られています。結核には、途上国に多い病気というイメージがありますが、日本の発症率は現在でも欧米の4倍高くなっています。
そして、血液のがんといわれる慢性白血病にも違いがあります。
慢性白血病には慢性骨髄性白血病と慢性リンパ性白血病があり、このうち慢性リンパ性白血病のほうが、ずっとおとなしい病気です。欧米では、おとなしい慢性リンパ性白血病が大部分なのに対し、残念ながら、日本は慢性骨髄性白血病が9対1と圧倒的に多いのです。
この逆が多発性硬化症です。脳や脊髄、視神経のあちこちに病巣ができて、神経の情報がスムーズに伝わらなくなり、さまざまな症状が出現する病気です。こちらは欧米白人に多く、北欧には発症率が日本より20倍以上高い地域があります。
また、最近よく聞くようになった潰瘍性大腸炎も、もとは北欧を中心とする欧米に多い病気でした。日本でも発症率が上がってはいますが、現在も米国の半分以下です。
がんは国によって発症率が異なることがよくあります。
世界保健機関(WHO)が発表した『世界がん報告2014(World Cancer Report 2014)』によると、日本の人口が世界人口に占める割合が1・8%であるのに対し、肺がんの発症数は世界の5・2%、肝臓がんは4・6%、そして胃がんは11・3%を占めています。
つまり日本は、胃がん、肺がん、肝臓がんになる人が多い国なのです。日本を含む東アジアは胃がんが世界一多い地域として知られ、発症率は北米のなんと7倍。その中でも、とくに発症率が高い国の一つが日本です。これにはピロリ菌の感染が関係しています。ピロリ菌は欧米人やアフリカ人にも感染しますが、欧米のピロリ菌と東アジアのピロリ菌は種類が違い、欧米型はあまり胃がんを起こしません。
(写真:現代ビジネス)
これを見るとわかるように、世界の肝臓がんの4分の3が、中国とインド、そして日本を含む東アジア、中央アジアで発生しています。この地域は肝臓がんの原因になる肝炎ウイルスに感染している人が多いからです。
これらの病原体は感染すると環境要因として働いて、胃がんまたは肝臓がんの発生と関連する遺伝子の作用を強めます。これによって発がんが促され、発生したがん細胞が増殖して、病気としてのがんを発症するのです。